自宅で馬を飼うという夢

【乗馬日記】

最近の W くんは私に対して「鼻を鳴らす癖」がひどい。

いわゆる「ヒヒーン」じゃなくて「ブヒブヒ」「ブルル」という豚みたいな鳴き方だ。

要するに「にんじん、にんじん!」という甘えというか催促らしい。

騎乗中はまずまずの良い子だから(でもまだあと一歩物足りないというか、自分の至らなさはある)バカにされている訳ではなさそうだ。

でも騎乗時以外では「ブヒブヒ」癖が止まらない。

下馬した瞬間にも「ブヒー」とやられる。

「ブ、ブ」と言いながら蹄洗場まで一緒に戻ってからも、にんじんクレクレが止まらない。

手入れが全部終わって馬房に戻ってからだよ、と言ってどうにか我慢させるものの、圧がすごい。

 

W くんの飼桶(ご飯用のバケツ)は、いつもピカピカ光っている。

食いしん坊で誰よりも早食いなので、ひとり食べ終わってしまった後はひたすら飼桶を舐めて磨き上げているようだ。

人なつこいW くんは犬みたいな子だといつも思う。

「こんな犬が家にいたらいいなあ」と思うとつい「超大型ゴールデンレトリーバー」みたいな目でみてしまう。

 

平安か鎌倉時代の絵巻物で、貴族の屋敷(暮らし)が俯瞰で描かれたのを見たことがある。

ちゃんと馬小屋があって馬も描かれている。

「すごいっ」と思ったのは、馬小屋と人間の住まいが繋がって一体化していたことだ。

乗馬をやっていたり、馬を愛している人なら誰でも一度は「馬と一緒に寝起きしたい」という願望を持ったことがあるんじゃないかと思う。

人間の住まいと馬小屋をつなげてしまった昔の日本人はやっぱり馬が大好きだったのだろうなと思う。

江戸時代の浮世絵に描かれているが、日本人は馬に人間と同様の「わらじ」を履かせていた。

博物館でこの巨大な「馬用わらじ」の実物を見たことがある。

otakinen-museum.note.jp

近代になって欧米式の調教法や馬術が入ってくるまでは、日本人は馬を「猫可愛がり」して甘やかしていたようだ。

幕末~明治初期に来日した欧米人には、人間の命令を聞かずわがままいっぱいの馬を𠮟りもしないで「仕方ないなあヨシヨシ」とか言っている日本人が衝撃だったらしい。

「生類憐みの令」は動物愛護においては時代に相当先駆けていたのだ。

 

現代日本でも自宅で馬を飼っている人は少数ながらいる。

ほとんどは「乗馬クラブ」とかそこまでの規模ではなくても、お客さんを迎えて引き馬や体験乗馬のサービスを提供しているところが多いとは思う。

でももし「乗馬施設」ではなくてペットみたいに馬を飼うとしたら...

・(自分の敷地でなくても)馬を運動させるのに適した土地が使えること。

・信頼できる装蹄師さんと獣医さんが来てくれること。

・安定した飼料確保ができること。

・365日ちゃんと馬のお世話ができること。

この辺りが難関になるだろうか。

もちろん旅行にも行けないし、自分が病気になっても馬のお世話はお休みできない。

だから現実には自宅で馬を飼うのはハードルが高い。

それでも家に馬がいたらどんなに幸福だろうかと想像して、いつもちょっと夢を見てしまう。

大変だろうけど自宅で馬を飼っている人がうらやましい。