実朝の和歌と『鎌倉殿の13人』ラスト予想

大河ドラマに登場した実朝の四首

以前の記事で、テレビのドラマの中で和歌が省略されることなく紹介されるのは珍しいことについて書いた。

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『鎌倉殿の13人』10月16日放送の「穏やかな一日」では、予想を上回る計四首の実朝の和歌が登場した。

最初の歌は、実朝が三善康信に披露していた一首。

「今朝みれば山も霞みて久方の 天の原より春は来にけり」

今朝見ると山も霞んで大空から新春がやってきたのだなあと思う

金槐和歌集』春

実朝の個人和歌集(家集という)である『金槐和歌集』の最初の歌である。

(和歌集は春→夏→秋→冬→恋→雑という順番と決まっている。)

実朝の師匠、藤原定家(ていか/さだいえ)はドラマには登場しなかった。

でも実朝の乳母阿波局(実衣)や京都から来た近臣の源仲章の口からその名が何度も出てきた。

個人的には一度だけでもちらっとでいいから登場してほしい。

もう一首、三善さんが「句を入れ替えた方が〜」とドタバタしていた場面で部分的に「鎌倉の里」と言及されていた歌。

次の一首であろう。

「宮柱ふとしきたてて萬代(よろづよ)に 今ぞ栄えむ鎌倉の里」

宮殿の柱をしっかりと建てて今これからもずっと鎌倉の里が栄えてほしいと思う

金槐和歌集』雑部「慶賀の歌」

 

次に、北条泰時に渡した和歌。

「春霞たつたの山のさくら花 おぼつかなきを知る人のなき」

春霞が立ち込めてはっきり見えない龍田山の桜の花のように私の恋心もあの人は知ることもないのがもどかしい

金槐和歌集』恋部

この歌については「初恋の心を」という「詞書」(ことばがき)=「歌が詠まれた事情の説明」がついている。

この「詞書」を文字通りの「体験」として解釈すると、実朝の初恋の相手は泰時であったという解釈のドラマのストーリーに重なってくる。

ドラマの中で泰時は和歌が詠めなくて困っていた。

しかし一事が万事、真面目で努力家だったのだろう。

和歌についても実朝同様に藤原定家に師事し、その後詠んだ作品が定家が編纂した『新勅撰和歌集』を始め以後の勅撰集(天皇の命による和歌集)に入集している。(もちろん「政治」的な力によるが)

 

さて上の二首「今朝みれば」も「春霞たつたの」は「古今調」「新古今調」、「宮柱ふとしきたてて」と「大海の」は「万葉調」が見られる。

さらに「大海の~」の下句には、もっと実朝の個性的な言葉遣いが感じられる。

実朝の和歌の特徴をよく示す3つの調+独自の個性をコンプリートするのに最適な四首がドラマの中で的確に選択されていて驚いた。

「大海の磯もとどろに寄する波 割れて砕けて割けて散るかも」

金槐和歌集』雑部

実朝が泰時にこの歌を差し替えとして渡したということは三谷さんはこの歌を「失恋」の意味にも解釈できることを示している。

この歌は「雑」の部の歌で「恋歌」ではないが「本歌」(オマージュを込めて語句の一部を有名歌から取る手法)としているのが「万葉集」の恋歌なので理不尽ではない。

この和歌を介した高度な意思疎通の後、泰時がやけ酒?をしていたのが趣深い。

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『鎌倉殿の13人』ラスト予想

 

実朝の和歌と同様、三谷幸喜さんにとっても「本歌取り」という手法は重要な要素だろうと思う。

ここからはドラマの最終回であろう北条義時の死をめぐるシナリオを勝手に予想してみる。

「予想」なのでネタバレではないが、「変な推理」を避けたい方は読まないことをおススメする。

 

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先日の記事で取り上げた本郷和人氏の『承久の乱』にも書かれているが、本郷氏は実朝暗殺の「黒幕説」の本命は北条義時としている。(P.121)

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10月16日の放送回では「実朝 VS 義時」の不穏な様子が描かれていた。

また次回に引っ張りそうな雰囲気の(義時の次男)朝時の事件でもこの対立はますます激化すると予想される。

そうなるとドラマも本郷氏の見解と同様、後鳥羽上皇に忠義を示し「意に沿わなくなった」実朝の暗殺に義時が関わってくる可能性が高いと思う。

さて、そこで(あくまでもドラマの世界でだが)実朝が周囲や御家人たちからどう思われていたかという点が気になる。

和歌をまともに教えられず足手まといになっている三善康信に対しても思いやりと気配りを忘れない優しい実朝。

現在までのところ、御台所からも慕われている様子だ。

北条政子にとっても生き残った最後の子である実朝。

実朝は極めて優秀で人格も優れた「鎌倉殿」だったのだ。

そんな実朝を死に追いやった企みを、もし義時が主導していたとしたら?

 

ここで脚本家三谷幸喜氏が特番で明かしていた「アガサ・クリスティの影響」とやらを加味してみる。

三谷さんは以前「日本版アガサ・クリスティ」の『オリエント急行殺人事件』(2015年)『黒井戸殺し』(2018年)といったスペシャルドラマを書いている。

私は個人的に『オリエント急行殺人事件』のスタイルを取る気がする。

 

★ここから『オリエント急行〜』のネタバレ!

 

 

「殺人犯」のラチェット氏に復讐を誓った『オリエント急行』の12人の顔ぶれと「鎌倉殿」=実朝の周囲の人々の顔ぶれが似ているように思うからだ。

そして同じ「動機」があると思う。

被害者(=「鎌倉殿」実朝)の「乳母」「使用人」「家庭教師」「父親の部下」etc.

人数も『オリエント急行~』と同じく12人くらいになるのではないだろうか。

それに義時を足して13人。

承久の乱の後、政子たちは実朝暗殺の「真相」を知ることになるのではないか?

上にこの『オリエント急行〜』のプロットを取る「気がする」と書いたが、ちょっと違うかもしれない。

私にとっては中学生の頃から熱愛する実朝が殺されたのだ。

その殺害の首謀者が義時であるのなら、彼は『オリエント急行~』のラチェット氏と同じ末路をたどってほしいと思っている。

私は怒っているのだ!

予想が当たるか外れるかはどうでもいい。

実朝が暗殺されるなんて、本当に許せない。

とにかく実朝暗殺の回は最大級の鬱に襲われそうで今から戦々恐々としている。