日本人の英語習得が「不利」な理由
氷河期世代で大変だったこともあり、昔はいろいろな仕事をしていた。
英語を教える仕事はそのひとつだったが、次第に情熱を持つようになり、今でも知人の紹介に限ってレッスンを請負うことがある。
他の仕事も語学が関わるものだったが、いつも感じていたのは日本人は英語に不向きだということだ。
なぜなら日本語を「母語」としているからだ。
端的に言って、英語と日本語は発音においても文法においてもすべてがかけ離れた言語同士だ。
はっきり言って「嫌がらせ」かと思うほどの違いが両者にはあると思う。
そして「母語」は想像以上に音声認識や思考に根付いて影響を与えていて、外国語の習得を阻む要素になっている。
さらに「カタカナ」という魔物も英語の習得を妨げている。
(文法は別記事に改めるとして)本記事では「発音」と「カタカナ」の問題と、まず初めに英語で習得すべきことについて述べたいと思う。
学校では「シュワ」を教えないのか?
自分はちょっと特殊な教育を受けたので同じではないが、現在日本では小学校から英語を習い始める。
中学校からだけでも義務教育だけで最低3年は英語を学んでいることになる。
でも私が過去に英語を教えた通算200名近い人の中に「シュワ」を知っている人はほぼいなかった。
誰も知らないにもかかわらず英語の中で一番よく発音される音。
それがシュワ/シュワ―(独:Schwa)だ。
あのシュワルツェネッガーの「シュワ」と同じ綴り。
意味は「あいまい母音」を指す言葉だ。
/ə/
上記を見せるとたいてい「ああ、それ」という顔をする。
でも見たことはあるけれどよくわからない人がほとんどだ。
それも無理はない。
日本語には存在しない音だからだ。
私が英語を教える時は、まずこのシュワから始める。
「まず、すべてのやる気をなくして力を抜いて、腹の中から口に向かって、エとウとアの中間のような音を出す」
やらされる方はこの上なく意味不明という顔をするが、我慢してもらう。
なにしろ英語において最も多く出てくる発音だからやるしかない。
【æ】 【ʌ】 【a】などを知っている人は多いが、シュワの重要性に比べればこれら の違いは大したことない。
そしてこの発音ができないと絶対に(あえて断言)英語が正確に聞き取れるようにはならない。
「ステーション」じゃなくて「ステイシュン」
日本人にとって英語が「鬼門」なのは、日本語の「文法」と「発音」が大きく異なるからだが、それに並ぶもうひとつの要因が「カタカナ」だと思う。
日本語が堪能なイギリス人ピーター・バラカン氏は、日本人はカタカナ英語を捨てれば英語がうまくなると主張し『猿はマンキ、お金はマニ』という本を出版しているが、私も同感だ。
明治時代の日本人はこの「カタカナ英語」という毒まんじゅうを食っていない。
だから白いシャツのことを「ワイ」シャツと比較的正しい音で認識している。
でも現代ではカタカナ英語の呪いによって「ホワイト」のようにわざわざゆがめてしまう。
これが顕著に、そして徹底的に浸透している典型が「-tion/sion」=「ション」だ。
station (駅)「ステーション」
nation(国家)「ネーション」
corruption(腐敗)「コラプション」
「ション」とカタカナで示されているのは、すべて「シュワ」だ。
「ショ」だったら口をとがらせて「オ」の音をはっきりと発音する。
でも「シュワ」の場合は、ぜったいにやる気や力を出して吠えてはいけない。
あえてカタカナにするなら「シュン」が近い。
station (駅)「ステイシュン」
nation(国家)「ネイシュン」
corruption(腐敗、堕落)「カラプシュン」
私はヘンデルの音楽が好きで、よくクリスマス恒例のサントリーホールの『メサイア』を聴きに行く。
ある年の日本人バリトン歌手が上記の「corruption」という単語を「コラプショーン」と口をとがらせた力強い「o」で発音したことがあった。
まるでイタリア語の「=corruzione」(コルッツィオーネ)の「o」みたいに。
声楽の世界では「発声」だけでなく「発音」も重要だから、ふつうは徹底的に正しい発音を習う。
私はアマチュアだが、声楽の先生にはさんざんイタリア語に存在する「e」の2種類の発音を直され続けたことがある。
だからプロの声楽家がこうした発音の間違いに気づいていないことに驚いた。
しかしクラシック音楽の中では英語はマイナー言語なので、プロの声楽家でも英語の発音が正しく認識されていないことはあるのかもしれない。
「高低(ピッチ)アクセント」と「強弱(ストレス)アクセント」
昔、雑誌の記事でフランス語の翻訳者になった人が、英語が苦手で嫌いだったがフランス語はすんなりと習得できたという話を読んだことがある。
文法はさておき、発音においては日本語を母語とする立場から見て腑に落ちる話だ。
私は英語を教える時「シュワ」から始めると書いたが、続いては、
「強弱(ストレス)アクセント」
を身につける音声トレーニングを主体とする。
"We will make America great again."
前大統領のドナルド・トランプ氏はいろいろ物議をかもす政治家だ。
でもスピーチは子どもでも分かるような単語や言い回しが多く、ゆっくりとしゃべる。
だから英語の教材としてはとてもすばらしい。
前任者のオバマ氏はインテリすぎて、単語も難解なものを多用し文章も凝っていた。
あれでは外国人はおろか、アメリカ人だってよく理解できない人もいるだろう。
さて上記の有名なフレーズを英語学習者の日本の方に発音してもらうとたいていこうなる。
「ウィー ウィル メイク アメリカ グレート アゲイン」
カタカナ万歳!というかんじだ。
でも実際にトランプさんはこんなかんじだ。【1:04~】
「ウィーゥー メイk ァメ―ゥㇼヵ グレイt ァゲイン」
太字が「強」で、それ以外は「弱」。
日本語にはない「強弱(ストレス)」の構造に慣れると自然に発音できるようになり、聞き取ることができるようになる。
「高低(ピッチ)アクセント」の日本語では、
「ウィー(高)ウィ(低) ル(低)メ(高)イ(低)ク(低) ア(低)メ(高)リ(高)カ(高) グ(低)レー(高)ト(低) ア(低)ゲ(高)イ(低)ン(低)」と発音する人が多い。(個人差あり)
日本語では、同じ強さで音が上がったり下がったりするだけだ。
逆に「強弱(ストレス)アクセント」を母語とする人、例えばアメリカ人が日本語をたどたどしく話すと次のようになる場合が多い。
「ゥターシノ ヌマーエハ John Smith デース」
上に、英語が苦手なのにフランス語は得意だった人の例を挙げたが、フランス語は英語のような「強弱(ストレス)アクセント」ではないため、日本人にとって発音が英語ほど難しくないという点が挙げられるかもしれない。
日本人が英語を習得する上でまず攻略すべきは
①「シュワ」
②「強弱(ストレス)アクセント」
この2点さえ身に付ければ、英語は聞き取れる。
(意味が分かるかどうかは、単語を知っているかどうかの問題になるが...)
実際、うちの相方は受験英語のようなものしか勉強しておらず、リスニングは不得意だった。
しかしテレビで英語が聞こえる度に私が「シュワ」と「強弱(ストレス)」をしつこく指摘するのを何となく聞いていたところ、やがてニュースなどで流れてくる英語が自分で聞き取れるようなった。
シュワを真っ先に攻略すべき理由:
「強弱(ストレス)アクセント」の英語の中で「もっとも弱い音=聞こえにくい音」だからだ。
具体的な学習方法については記事を改めたいと思う。
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