50万円をドブに捨てた知人
当ブログの中でわりと地味によく読まれているのが下の記事だ。
「50万円払って入会すれば3か月で英語がペラペラになる魔法のようなメソッド」
を掲げる英語スクールのやり手営業の言葉を信じて、結局
「全然できるようにならない!騙された!」
と怒っていた知人の話だ。
「たった50万円でそんなものが売っているわけなかろう。そんな良いモノがあったら、最低10倍の価格(=500万円)でも売れるんじゃないか?」
「カルティエの時計でも買った方がよかったね...」
そう毒を吐いた私だが、数年前の話だから本当にカルティエの方がよい投資だったに違いない。
こうしたスクールビジネスの裏側については別途取り上げたいと思っている。
ただ「50万円」の妥当性について、私は「ぼったくり」とは思っていない。
この知人に教えるのは、直接本人にも言ったがまっぴらゴメンではあるが、人件費等コストを考えてみれば「50万円」はさほど「ぼって」いないと思う。
私のレッスン代もそんなに安くはないが3か月で50万円、レッスン数24~30くらいを想定するのなら、私だったら(スタート時が TOEIC500くらいであれば)「TOEIC 800」程度の「成果保証」を付けるかな...
「TOEIC 800」を達成するまでは追加料金なしでレッスンする、というやつだ。
私の場合は「紹介制」でしかレッスンしないので「生徒募集」はしていない。
でも実際のところ「TOEIC 800 成果保証付き」でビジネス展開をしても難しいのがこの業界の感覚、というか利益構造だ。
「50万円」のサービスを売るにしても、知人が「騙された!」と恨むほど「安易で誤解させる売り込み」をするのは問題があるだろう。
でも、そんな「商法」がはびこっているのが今の日本なのかもしれない...
「英語を勉強している自分がステキ」を売るビジネス
会社員で昇進や海外赴任の条件として TOEIC のスコアが課されている人はそこそこいるが、それほど多いわけでもない。
数か月以内に「800点必達」の人の場合はそれがスクールに通う「目的」だが、このビジネスの主要なターゲットはそういう人ではない。
「英語を勉強している自分」を空想して「そんな自分が好き」と思っている人たちだ。
英語ではなくフランス語でも同じ、というよりフランス語の方がその傾向が顕著かもしれない。
コロナ禍で私はワークライフバランスが変わり、特に2年目あたりで「空白の時間」が増えた。
そんな時たまたまフランス語を基礎レベルまで習得したいという人に3か月間「仏検3級取得」までの学習指導をした。
その人は英語がかなりできるのだが、逆に英語が邪魔をしてなかなかフランス語が覚えられないのが問題だった。
そこで、英語が「干渉」しないようにフランス語を習得するノウハウや、英語と共通する部分、しない部分にターゲットを絞ってレッスンをした。
このような人の場合も、仏検という具体的な「目的」がある。
しかし、フランス語を勉強しようと思う人の大半は「フランス語っておしゃれでステキ」という憧れのイメージが動機だ。
「英語(フランス語)を勉強している自分」「英語(フランス語)をしゃべっている自分」を想像するのが好きな人たち。
語学のスクールビジネスの核心は、このイメージをキャンプファイヤーの火のように「焚きつけ」て売上に結びつけることができるかどうかにある。
「英会話」レッスンが時間のムダになる理由
「英語をしゃべっている自分」のイメージの最たるものが「英会話レッスン」だ。
この「夢」が強ければ強いほど「英会話レッスン」を希望するケースが多くなる。
しばらくの間は入門~初級のテキストを使った勉強で我慢しているが
「やっぱり会話がやりたい」
という人たちである。
語学ビジネスにとってはこういうお客さんに、例えば「1時間5000円」の「切り売り」するというのはなかなか良いチャンスだ。
でもこれはほとんど「占い師さん」と同じ業態で、同じくらいの効果しかないと思う。
「夢」を見ている人にビジネスを知っている側からの現実を突きつけるのは、悪趣味かもしれない。
でも英語スクール絡みで、後になって「お金を損した!」という話を聞く時、いつも同じだなあと思うことがある。
それは、
会話ができるようになるまでには相当の「インプット(引出し)」が必要
ということだ。
語彙力もなく文法もうやむやなまま「会話」を試みても
「こういう時って英語でどう言えばいいの?」
と困惑したまま時間が過ぎたり、腹痛のように悶々とするだけだ。
そして講師から、
「それはそうじゃなくてこう言います」
的に修正をされたり、知らなかった新しい表現を教えてもらうだけで時間が過ぎる。
(ビジネスの側からすると、こういう人の相手をするのはすごく「オイシイ」仕事だと言えるのだ...)
そして、その時教わった表現というのは(私の経験上)大方忘れてしまう。
なぜなら、こんなふうに行き当たりばったりで取ってつけたような情報は記憶に定着しにくいからだ。
ではどうすればよいか?
「会話レッスン」に費やす時間を、もっと単語の暗記、英文の読書、それから音読と音声トレーニングに充てる方がいい。
そうやって膨大なインプットが蓄積されると、
「こういう時には何て言えばいいか?」
と悶々することはない。
「引出し」の中から、探しているモノ(表現)を取り出すことができるからだ。
この「引出しづくり」こそが、語学習得の核心部分だ。
とても地味だ。地味すぎる...
そして根気がいる作業だ。
上にも書いたように、英語ビジネスの核心は「夢を売る」ことだ。
だから「実は英語習得はすごく地味で忍耐力がいるんですよ」とは決して明かさない。
私が紹介制でしかレッスンしないのは、この点についてみっちり説明するからだ。
「最低3か月は地味な単語の暗記と音声レッスンが中心なので、英会話はありませんよ。しばらくは忍耐の日々ですが大丈夫ですか?」
これに納得した人は、例えば「3か月でTOEIC 800」などもおもしろいようにクリアしてくれる。
それはそれで良いのだが、それでもまだ私は
「50万円使うなら、英語スクールにするかカルティエの時計にするかよく考えた方がいい」
という点を強調したい...