私は紛うことなき「宵っ張り」の「ロングスリーパー」だ。
昔は、人間に適した睡眠は「7時間」だとか「早寝早起き」が模範的だという風説が大手を切っていた。
しかし、最近の科学的研究成果によれば「適した睡眠時間は人それぞれ」であり、「朝型」か「夜型」かは、生活習慣よりも体質によって決まるものだという説が注目されるようになった。
夜型ロングスリーパーにとっては「いわれなき糾弾」に反撃することができるようになって喜ばしい。
そんな自分は花粉のアレルギーがある。
だから毎年2月の中旬からアレルギーの薬を服用している。
ゴールデンウイーク頃になると「もう大丈夫かな?」という感じで服用終了する。
ところが以前、旅行先で大変なことになった。
6月か7月ごろだったと思う。
仕事で北海道に行った帰り、「個人的旅行」を追加して帰ることした。
石狩川沿いの広大な草原を馬で疾走するやつである。
やっぱり北海道はすごい!
本州とはまるで異なる風景だ!
そう感激しながら下馬した後のことである。
鏡を見ると、顔がみるみる腫れあがって、自分の顔が見たことのない顔になっていた。
瞼が膨らみ、激しく咳き込んだ。
アナフィラキシーの二、三歩手前くらいの感じかもしれないと思った。
北海道の川岸に蔓延る「カモガヤ」のアレルギーを発症したのだ。
すぐに薬局に駆け込み、薬を服用すると体が頑丈なせいもありかなり持ち直してきた。
まだ人相は元に戻っていなかったが、札幌市内のホテルにチェックインした。
ホテルのロビーはグランドフロアの奥の方にあって、広々とした空間はシックに薄暗かった。
腫れあがった顔はとても人様に見せられるものではなかったので、サングラスをしていた。
しかしあまりにも暗いスペースで、濃いグラスをしているから視界は真っ黒だ。
「こちらにお名前をご記入下さい」と差し出された印刷物が見えない。
フロント係の様子をチラチラと伺いつつ、でも外すわけにはいかないサングラスをちょっとだけずらしながら、どうにか書き込んだ。
明らかに挙動不審な動きをする自分は、逃亡中の犯罪者のように怪しかっただろう。
夜になって、やっぱりまだサングラスをしたまま(怪しすぎ)エグゼクティブラウンジに行くと、本州では手に入らないかのサッポロビール「北海道限定缶」がずらりと並んでいる!
しかし、その日はたっぷりと「抗ヒスタミン剤」を服用している。
地団駄踏みたい気持ちをぐいっと呑み込んで、部屋に帰って寝た。
この日から、私の花粉アレルギーは「スギ」「ヒノキ」に新たなラインナップ 「 NEW カモガヤ」が加わった。
そんなわけで毎年、花粉の時期はずっと薬を服用しているのだが、そのせいで常に少し眠気がある。
だから「ロングスリーパー」の睡眠時間は、ますます長くなる。
まったく邪魔することがなければ、12時間は眠れる。
点鼻薬も追加すると、もっと眠れる。
しかし今春からは新しい仕事がある。
早朝から職場に行かなければならない曜日がある。
それに備えて、3月から「朝早く起きる練習」を始めた。
「朝型」に適応するために、朝イチで乗馬のレッスンを入れたりもした。
だから予定を入れれば、早起きはできるようになった。
でも、早起きした日の夜は早く眠れるかというとそんなことはない。
まるで徹夜明けのハイテンションみたいに、ギラギラしながらやっぱり夜更かしする。
そして翌朝、案の定「暁」はやってこない。
「そんなに寝てたら、人生の時間が少なくなってもったいないよ」
という人もいるが、大きなお世話なのである。
夜型のロングスリーパーは、どう転んでも、朝型のショートスリーパーにはなれない。
自分の体質に適した方法でどうにか生きてゆくしかないのだ。