東京オペラシティ(初台)のベストシート

まだ叶っていない私の夢は、ドイツのバイロイト音楽祭リヒャルト・ワーグナーの『ニーベルングの指輪』を全幕4日間ぶっ通しで観ることだ。

でも、先日から1週間に3度コンサートホール通いをして「無理かもしれない」と思い始めた。

クラシックのコンサート鑑賞は異様に疲れる。

外乗旅行で数日間馬に乗りっぱなしでもこうはならないというような疲れ方だ。

「場」の雰囲気に当たりやすいのかもしれない。

 

当分、コンサートに行く予定はないが、今回の経験で感じた東京オペラシティ コンサートホール、タケミツ メモリアルの「良い席」についてメモしておこうと思う。

3/1 のフィリップ・ジャルスキー&アンサンブル・アルタセルセ《オルフェーオの物語》公演。

3年前のコロナ禍による公演中止を挟んで、9年ぶりの来日。

席は2階の2列目、左方のS席。

タケミツ メモリアルは今まで1階席しか体験しておらず、2階席は初めてだった。

直近で聴いたモダンピアノの演奏会だけで考えると、2階の正面最前列辺りは最善席かもしれないと思っていた。

しかし、ピリオド楽器のアンサンブル、カウンターテナー&ソプラノの演奏会としては「ちょっと遠すぎる」と感じた。

あと10メートル近づきたい欲求に駆られた。

モダンピアノの演奏会では、前方か後方かにも増して、右方か左方かによって聴こえ方に違いがあるが、ピリオドの今回は「も少し前に...」と思った。

演奏は申し分なくすばらしかったが、たぶん後日NHKのテレビ放送で(5月ごろの予定らしい)聴く方がもっとよく味わえる気がした。

タケミツ メモリアルの一階席は、中央ブロックだけ1列毎に前後がずらしてあり視界が広くなっている。

しかし、右と左のブロックはそうではないため、同じ1階S席でも「当たり外れ」がある。

中央ブロック前方席だった前週のブルース・リウの時のシートで、バロックアンサンブルを聴きたかった。

でも前週は念願のファツィオリの響きを満喫できたので、それはそれでよかった。

 

コンサートのことも少し。

昨年末から始まったデジタルデトックスの流れで、まだ本格的にネットの世界にアクセスできていない。

それで今回のコンサートも《オルフェーオの物語》だから、クラウディオ・モンテヴェルディの『オルフェオ』の抜粋かと思っていた。

実際はもっと趣向が凝らされていて、モンテヴェルディの同作をベースに、同じオルフェオをテーマに作られた同時代のルイージ・ロッシの作品、そしてそれより少し後の時代のアントーニオ・サルトーリオの作品をストーリーの流れに巧みに「編み込んだ」プログラム。

ジャルスキー氏いわく「今まで不当なほどに演奏される機会がなかった」というサルトーリオの作品を取り上げ、光を当てた新しい取り組みということで意気込みを感じた。

古楽は、演奏家がパフォーマンスだけではなくて研究、発掘といった「学者」っぽい試みがあるのが楽しい。

コンサート最後の曲は、アンコールのモンテヴェルディ《ポッペーアの戴冠》の最後のネッローネとポッペーアの二重唱。

プログラムの最後が可哀そうなオルフェーオが「死なせてくれ!」で舞台暗転だったのがちょっとあっけなかったとともに、救いのないオチだった。

モンテヴェルディの《オルフェーオ》では、ギリシア神話の通りお父さんのアポロ神が登場して天上に昇らせてくれるという結末だ。)

でも再び舞台に照明が当たり、アンコールでハッピーエンドの作品の二重唱で締めくくるというウィットに富んだ構成。

ちょっといただけないと思ったのは、アンコールの演奏が始まると一部の聴衆がザワっとして拍手を始めたことだ。

「えっ、これってポッペーアじゃない?」的なリアクションなのだろうか?

すかさず「ここに来てる人はそんなこと皆分かってるんだから騒ぐなよ!」的な防戦の空気が流れ、拍手が収まった。

ブルース・リウの時もそうだったが、アンコールの曲が始まると拍手を始めるのは最近の流行なのだろうか?

でもフィリップ・ジャルスキー&アンサンブル・アルタセルセの時には、さすがにブルース・リウの演奏(J.S.バッハ フランス組曲第5番のアルマンド)に合わせて靴を床にバン、バンって拍子を取るようなおじさんはいなかった。

こういうおじさんを目撃したのは、子どもの頃のスタニスラフ・ブーニンのコンサート以来だった。

聴衆全体の雰囲気もまったく違うので、本当に同じタケミツ メモリアルなのだろうか?パラレルワールドじゃないのか?と思うほど「異空間」だ。

集団心理とか集合意識とかって、すごいと思う。

一言も言葉を発しなくても「気」だけで強烈なメッセージを表し、場を支配するのだ。

そういうのが楽しいと言えば楽しいが、神経がすり減って異様に疲れるしちょっと怖い。

やっぱり、音楽は家で気を散らさずに聴く方が性に合っているかもしれない。

でも経験としては、タケミツ メモリアルはモダンピアノなら中央右寄りの1~2階正面がヨシ。ピリオドなら1階前方がベストだと思った。