NHK の日曜日夜11時の枠で、珍しくフランスのテレビドラマを放送している。
コロナ禍が始まった時、私はちょうどフランスに行く予定だった。
海外渡航が困難になったため、当時は「行かないでどうにかする」ことになったが、それから2年半近く経った今ではもう「まったく行く必要がない」状況となった。
フランス語は日頃使わないから、どんどん忘れていくので Amazon プライムでフランス映画を観たり、Youtube でフランス語の動画を視聴したりしているが次第にネタ切れになってきた。
私は強烈な個性の名優イザベル・ユペールが好きなのだが、今年は戦争やら酷暑やらいろいろあって精神が疲労しているのか、もっとあっさりとした穏やかな作品を求めていた。
そんな時偶然ぼんやりと見始めた「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」。
HNKの番組説明にある「頭脳派の文書係と行動派の警視の女性バディが難事件を解決するフランス発ミステリー」という説明はよくありそうなドラマみたいだ。
でも見始めると脚本、演出、演技すべてバランスがよく「自閉症」の主人公を表現するのに変な気負いも衒いもなく、登場人物にみな落ち着いた魅力がある。
そして何よりアストリッド(Astrid)とラファエル(Raphaëlle)の関係が穏やかですてきだ。
「友情」という日本語はちょっと「浮いている」というか形而上的な雰囲気がある。
対してフランス人は(概して)「amitié」という言葉が大好きだし、日常的によく使うと思うが、このドラマでも2人の「amitié」が心地良い。
個人的にこのドラマで気に入ったポイントは他にもある。
・とても感じの良い日本人が登場する(ちゃんと日本人俳優が演じている)
・日本文化が絶妙なさじ加減で使われていてリスペクトを感じる
・アストリッドは J.S. バッハのピアノ曲が好き
・バディものの元祖シャーロック・ホームズへのリスペクトも感じる
でも私が一番驚き、気に入った点のひとつはラファエルの「吹き替え版の日本語(脚本)」だ。
海外ドラマ(映画)の女性の吹き替えは、ずっと日本語に違和感を持っていた。
「~るわ」「~のよ」「~わよ」
今時、ラファエル・コスト警視くらいの年齢の日本人女性で上記のような言葉遣い(女言葉)の人はほとんどいない。
このドラマの吹き替えではちゃんと「~だよ」と喋っている。
すごくナチュラルだし行動派のラファエルのキャラクターに合ってもいる。
もうひとつすごいと思ったのは、アストリッドの「吹き替え」を演じている貫地谷しほりさんの巧みさだ。
早口のフランス語でまくし立てる独特の喋りを、そのまま日本語でやっているのではなくて「日本人でこのキャラクターだったらこんなふうに喋るだろうな」と思える自然さがある。
当初は学習用としてフランス語の音声で聴いていたのだが、「吹き替え版」が見事で気に入ってしまったので、結局、両方を観ることになった。
派手に宣伝されていて知ったのではなく、たまたまこんな良い作品に出会えるなんてすごくラッキーだと思う。