ダメな犬はいない、重い馬もいない

【乗馬日記】

M ちゃんに乗らせてもらうのは久しぶりだった。(ちなみに「くん/ちゃん」は馬の性別ではない)

他の人が乗っている時、馬場の角のあたりでビターっと岩のように停止しているM ちゃんの姿をよく見かける気がする。

その日、馬装(鞍などを装備すること)の時にM ちゃんの後部寄りの腹に「拍車ハゲ」があるのを見つけてしまった。

「重い馬」(なかなか動かない馬)に手を焼いて拍車を使い過ぎると毛がむしられて「ハゲ」になり、更に拍車を当てすぎて「キズ」になってしまう。

よく見かける「拍車ハゲ」は、本来拍車が当たるべき箇所より後ろ寄りにできていることが多い気がする。

今のクラブでは見たことはないが、ひどい場合傷口から出血することもある。

私は拍車はめったに使わない。

脚(足のふくらはぎと踵)だけで乗る派だがちょっと前、上のクラスの先生から「馬動かすのが大変そうに見える」と言われたことがある。

自分では大変な自覚はなかったが、傍目には見苦しかったということがわかった。

ありがたいご指摘だ。

やはり乗馬は「騎乗者が何もしていないかのように」格好よくスカしていなければならないのだ。

そこで、その時先生から教わったふくらはぎの圧迫と鞭を使うタイミングの組み合わせに注意しながら M ちゃんに乗ることにした。

すぐに合図をわかってくれて「オッケー」という様子でサクサク軽快に走ってくれた。

最後の方は微かな舌鼓(「チッ」みたいな、人前でやったら下品なやつ)だけで反応してピッチを上げてくれた。

M ちゃんはとっても賢い子だ。

中級くらいの乗馬では、馬が動かなくて拍車キズになる問題はよくある。

でも本当に「重い馬」(=走らない馬)なんていないと思う。だって馬だもの。

 

ふと思い出したのは昔観た麻薬探知犬の育成をしている方の仕事ぶりだ。

菊地昭洋(2013年4月22日放送)| これまでの放送 | NHK プロフェッショナル 仕事の流儀

かなりハードで一筋縄ではいかないトレーニングで、訓練中の犬の中には「ダメな子」もいたりする。

でもトレーナーの菊地さんは決してあきらめず、犬の個性に合わせてさまざまな方法を駆使する。

番組で紹介された「一番ダメな子」は、根気強い取り組みによってついにその眠れる才能を開花させた。

そして他の子ができないような微量の麻薬まで探知できるようになっていた。

忘れられないのは、

「ダメな犬はいない」

というプロフェッショナルの言葉。

(ここでスガシカオ氏のあの音楽...)

 

騎乗後アフターケアをする時、段取りが悪くて距離のある蹄洗場(馬の足を洗ったりするところ)2か所を M ちゃんを連れて行ったり来たりするはめになった。

途中、M ちゃんの馬房がある厩舎の前を通りかかる。

M ちゃんはピタっと停止して私の顔をまじまじと見つめる。

「...あのー、オレの馬房はココなんですけど...」

「...つまり、ココ右折、ですよね?」

ゴメンね、まだ手入れが最後まで終わっていないんだよーと言うと、仕方ないな、わかったよ、という顔で再び前に進んでくれた。

M ちゃんは本当に賢い。

そして優しい子だ。