大勢(「たいせい」じゃなくて「おおぜい」の方)で野球を観るのは楽しい。
今週の祝日、スケジュール帳には午前中に乗馬の予約が入っていた。
ふだん祝日の午前中は予約がいっぱいなのに、「なぜか」その日に限って空いていたのはWBCの準決勝の日だからだ、ということに気づいたのは前日のことだった。
小学校の頃から野球好きで、思春期に野球を観るのを親に制限されていたことを今でも根に持っている私は、今回のWBC はグループリーグの試合から全部観ていた。
大人って、好きなことができていいよね。
もちろん準決勝も見たかったので、その日の乗馬はちょっと気乗りしなかったが、スケジュールを変更するのもなんなので、予定通り相方とクラブに行った。
コロナ禍ではどこの乗馬クラブもそうだと思うが、ロビーやラウンジのような「歓談スペース」は機能停止していた。
マスク着用の上、飲食は禁止、テレビもオンになっていることはなかった。
ところが、その日クラブハウスのテレビはWBC 準決勝、日本 VS メキシコ戦のスイッチが映っているではないか!
そうは言っても、乗馬中は野球の状況はわからない。
丁度馬をひいて戻ってくると、誰かが同点に追いついたと言っているのが聞こえた。
そこから今までになく超高速で片づけをして、馬にお礼のニンジンをやって、慌ててクラブハウスに戻った。
そこはすでに「ミニスポーツバー」のようになっていた。
吉田選手の3ランの後、またすぐに突き放されてしまった時だったので、焦燥感あふれる息をのむ状況だった。
乗馬クラブの「面子」というのは、平日と土日祝とでは全然違う。
その日は「土日組」が多く、野球が好きな人も多かった。
一球一球に歓声やため息が出る。
「ああ、こういうのやっぱりいいな」
とシンプルに思った。
みんなで一緒に野球を観る。
こういうシンプルな楽しみが、3年もの間、奪われていたのだ。
劇的な逆転サヨナラで幕を閉じたこの試合は、おそらく私が今までに観たことのあるありとあらゆる、プロ野球、甲子園、過去のWBCの中でも突き抜けて1番だった。
みんなきっと同じだと思う。
乗馬クラブで過去最高の試合を観る、というこれまた予想しない展開の楽しさに舞い上がってしまった私は、翌日も乗馬クラブにやってきた。
WBC 決勝を観るために、が目的だ。
しかし、その日の「観客」は前日とはまったく違った。
そもそも人の数が極端に少ないのである。
平日の午前中に乗馬クラブに来ている人々というのは、ほぼ「年齢高めの専業主婦」か「リタイア後の高齢男性」だ。
男性は「うんちく語り」したがるし、女性は「高級エステや芸能人の話」をふってくる。
悠々自適は理想化されやすいが、「これが現実」かもしれない。
何というのか、あまり「多様性」がないので、なかなか「話が合う」人がいない。
これは「プレ老後」を生きる自分としては、けっこう身につまされる。
クラブにきて、時間をつぶして、同じように暇な人とおしゃべりする。
もしそれが毎日だとすると、退屈で発狂しそうな気がする。
それに、どんなに楽しいことも、毎日だと楽しくなくなると思うのだ。
それでも一応WBC 決勝だし、大谷さんがクローザーとして登場するとどうにか人が集まってきた。
優勝の瞬間を共に喜ぶことができたから、家でひとりで観戦するよりはずっと楽しい。
「今年は野球を観に、もう何年も行っていない球場にも行こうかな。村上選手もいつまで日本にいるか分からないし」と思うと、がぜん楽しくなってきた。
本当に楽しませてくれたWBC 日本代表チームはすばらしかった。